妻が亡くなった時の夫の遺産相続:知っておくべきポイントと手続き
この記事でわかること
- 妻が亡くなった場合の法定相続人の決め方がわかる
夫や子供を含む法定相続人の範囲や、その相続分について詳しく解説します。 - 夫が妻の財産を相続する際の相続税の考え方がわかる
相続税の基礎控除額や、相続税申告の必要性についての理解を深めます。 - 遺言書を作成する時に気を付けるべきポイントがわかる
遺言書の作成に際して注意が必要な点や、遺言書の内容に関するアドバイスを提供します。
長年連れ添った夫婦にも、いずれ別れの時が訪れます。
その中には、夫が先に亡くなる場合もあれば、妻が先に亡くなることもあります。そこで今回は、妻が先に亡くなった場合の相続の注意点について解説いたします。夫が妻の財産を相続する際の相続税の考え方や、遺言書を作成する際に気を付けるべきポイントなどについて、ひとつずつ確認していきましょう。
1先立ったのが夫か妻で変わることとは?
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産を相続人となった人が引き継ぐことを指します。夫婦のどちらが亡くなったかによって、誰が被相続人となり、誰が相続人となるかが変わります。
夫が先に亡くなった場合
もし先に夫が亡くなった場合、夫が被相続人となり、妻が相続人になります。この場合、夫が保有する財産を妻が相続することになります。
妻が先に亡くなった場合
逆に妻が先に亡くなった場合は、妻が保有する財産を夫が相続する流れになります。夫婦で一緒に生活している場合でも、自宅や預貯金などの財産は、夫か妻のいずれかのものです。
財産の名義と相続
夫婦で一緒に購入した自宅についても、その土地や建物の名義は夫婦の共有となっています。いずれかが亡くなれば、被相続人の持分となっている部分については相続財産に含まれます。例えば、妻が専業主婦で、主に夫の収入で生計を維持してきた夫婦の場合、多くの財産は夫名義となっています。そのため、夫が先に亡くなった場合、妻は相続人として自宅や預貯金などの財産を相続することになります。自宅も夫名義であることが多いため、妻は夫の残した多くの財産を相続しなければ、その後の生活が困難になるでしょう。一方、妻名義の財産がそれほど多くない場合、妻が先に亡くなった場合は、夫が相続するか、子供など他の相続人が相続するか、状況に応じて選択することになります。
共働きの場合
夫婦共働きの場合、自宅は夫婦の共有名義になっていることもあります。また、預貯金などはそれぞれが保有しているため、どちらが先に亡くなっても、誰が相続するのかを検討する必要があります。
2妻が先に亡くなった場合、夫は財産相続できるのか?
妻に先立たれた夫は、妻の相続人となり、妻の財産を相続することができます。ここでは、妻が亡くなった場合に誰が相続人となるのか、その考え方について確認していきましょう。
法定相続人の考え方
誰が相続人となるかは、民法にその考え方が定められています。妻が亡くなった場合、その配偶者である夫は必ず法定相続人となり、相続する権利を有します。配偶者以外の相続人については、被相続人の(1)子供、(2)直系尊属、(3)兄弟姉妹が含まれます。
法定相続人の順番
法定相続人は以下の順番で決定され、該当する人がいればその人が法定相続人となります。それより後の人は相続人とはなりません。該当する人が亡くなっている場合は、その下の世代を探します。
- 子供
- 子供が亡くなっている場合でも、その子供(被相続人の孫)がいる場合には、その孫が相続人となります。
- 孫も先に亡くなっている場合には、その子供である曾孫が法定相続人となることができます。
- 直系尊属
- 直系尊属には親だけでなく、祖父母やさらにその上の世代も含まれ、法定相続人となる可能性があります。
- 兄弟姉妹
- 兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子供(被相続人の姪・甥)が法定相続人となりますが、それより下の世代は相続人にはなれません。
なお、子供には実子のほか、養子縁組した法律上の子供も含まれます。妻と血のつながっていない前妻との子供がいる場合でも、妻と養子縁組している場合には法定相続人となります。
法律上夫婦ではないとされる場合
法定相続人となる配偶者とは、法律上の夫婦関係にある人のことを指します。したがって、婚姻届を提出した戸籍上の夫婦でなければなりません。事実婚や内縁関係にある人たちは、たとえ一緒に生活していても法定相続人にはなりません。過去に婚姻関係にあったものの離婚した場合、その時点では婚姻関係がないため、相続人にはなりません。一方で、亡くなる直前に婚姻届を提出した場合は、婚姻関係が発生していれば問題なく法定相続人となります。
3夫が相続でもらえる金額とは
法定相続人が誰になるかが決まると、それぞれの相続人について法定相続分を計算することができます。ここでは、法定相続分の概念や計算方法について確認しておきましょう。
法定相続分とは
被相続人が遺言書を作成していない場合、相続財産を分ける方法は相続人同士の話し合いによって決まります。この話し合いを遺産分割協議といいます。遺産分割協議により遺産を分ける場合、どのような割合で分けても構いません。ただし、遺産分割協議が成立するためには、すべての相続人がその協議の内容に合意しなければなりません。もし不服がある相続人が1人でもいる場合、遺産分割協議は成立せず、遺産分割はできません。そこで、各相続人が相続できる割合を民法が定めており、この割合のことを法定相続分といいます。法定相続分は遺産分割の際の指針となりますが、必ずこの割合どおりに分割しなければならないわけではありません。ただし、何の目安もない状態では遺産分割協議は成立しないため、この割合を目安に遺産分割を行います。
法定相続分の割合
法定相続分は、相続人となる人によって異なります。具体的な割合は以下のようになっています。
相続人となる人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子供(第一順位) | |
配偶者 | 1/2 |
子供 | 1/2 |
配偶者と直系尊属(第二順位) | |
配偶者 | 2/3 |
直系尊属(親など) | 1/3 |
配偶者と兄弟姉妹(第三順位) | |
配偶者 | 3/4 |
兄弟姉妹 | 1/4 |
配偶者以外の相続人が2人以上いる場合、均等に分割されます。たとえば、配偶者と子供3人が法定相続人となる場合、配偶者の法定相続分は1/2です。この場合、子供の法定相続分は合計で1/2となるため、1人あたりの法定相続分は1/2 × 1/3 = 1/6となります。このように考えると、配偶者の法定相続分は子供など他の相続人と比べて大きく設定されています。これは、配偶者が被相続人と長年連れ添い、共に財産を築いてきたことへの貢献を考慮してのことです。また、被相続人の財産を相続し、その後の生活を支えるための配慮もなされています。
4相続税についての考え方
相続が発生すると、被相続人の財産を相続した人は相続税を支払わなければなりません。しかし、相続が発生した場合でも、すべての人が相続税を支払うわけではないことを覚えておくと良いでしょう。
基礎控除により相続税が発生しない場合
相続税の計算を行う際、相続財産の合計額から控除される金額があります。この金額を基礎控除といい、どの相続においても必ず適用されるものです。
基礎控除の額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。たとえば、法定相続人が4人いる場合、基礎控除は5,400万円となります。この基礎控除の額よりも相続財産の額が少ない場合、相続税は発生せず、相続税の申告も必要ありません。また、基礎控除の額を上回る相続財産がある場合でも、基礎控除は相続財産の額から差し引かれます。そのため、相続税の負担は思ったほど大きくないというケースもあります。
相続税を実際に負担する人は
基礎控除の計算をしても相続税が発生する場合、その相続税は誰が支払うのでしょうか?複数の相続人で相続した場合、各相続人の相続税の額は、相続した財産の割合によって決まります。したがって、同じ被相続人から相続した場合には、多くの財産を相続した人が相続税を多く負担しなければなりません。配偶者の法定相続割合は高く設定されていますが、多く相続すれば相続税の額も増えるため、新たな不安が生じるかもしれません。そのため、相続税の計算をする上では、配偶者に配慮した制度が設けられています。
5相続税が発生する際の配偶者控除について解説
相続税の計算上、配偶者に設けられた配慮とは「相続税の配偶者控除」と呼ばれる制度です。この制度について詳しく解説していきましょう。
配偶者控除の概要
被相続人の配偶者が相続した場合、その配偶者が相続した財産の額が法定相続分以下であれば、相続税は発生しません。たとえば、配偶者と子供が法定相続人となる場合、配偶者の法定相続分は1/2となります。そのため、相続財産が6億円の場合、配偶者が3億円相続しても、配偶者には相続税は発生しないのです。また、相続財産がそれほど大きくない場合でも、配偶者がほとんどの財産を相続し、その後の生活が保障されることがあります。そのような場合にも配慮して、配偶者が相続した財産の額が1億6,000万円までは相続税が発生しないこととされています。このいずれかに該当すれば、配偶者が相続した財産について相続税は発生しません。結果的に、ほとんどのケースで配偶者の相続税が発生しないと考えられます。
配偶者控除を受けるための要件
配偶者控除の適用を受けるためには、いくつかの要件があり、これらをすべて満たさなければなりません。
配偶者控除を受けるための要件
- 相続税の申告を行うこと
- 戸籍上の配偶者であること
- 申告期限までに遺産分割が終了していること
この3つの要件がありますが、実際には**(3)**の要件をクリアするために、相続手続きを進めることが重要です。相続税の申告期限は、相続が発生してから10か月とされています。基本的には、この10か月の間に遺産分割を完了し、相続税の申告を行う必要があります。
相続に関する手続きは数多くあるため、申告期限までにすべてを終了するのは非常に大変なことです。また、配偶者控除の適用を受けることにより相続税がまったく発生しない場合でも、相続税の申告は必要です。申告を忘れてしまうと配偶者控除が適用されなくなりますので、十分に注意しましょう。
6遺言書について気をつけるべきポイント
長年連れ添った夫婦は、財産を二人で一緒に管理している場合も多く、「自分が亡くなった場合には妻(夫)にすべての財産を相続させる」という遺言書を作成したいと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、このような遺言書は必ずしも相続人にとって望ましいものとは限りません。遺言書で財産を相続する人を指定することはできますが、特定の法定相続人については、遺言書の内容に関係なく最低限の相続分が保障されています。この保障分のことを遺留分といいます。子供が法定相続人となる場合、子供にも遺留分が認められています。そのため、配偶者が全財産を相続するという遺言書が、そのとおりに実行されるとは限らないのです。さらに、遺留分を巡る争いになると、最終的には相続人同士の訴訟に発展する可能性があります。親子や兄弟である相続人同士でも、泥沼の争いに発展することがあるため注意が必要です。遺留分にまったく配慮していない遺言書は、かえって相続人同士が不幸になる可能性もあることを忘れないでください。
7まとめ
夫婦であっても、いずれはどちらかが先に亡くなります。妻が先に亡くなることを想定していない方も多いですが、実際にそうなるケースは数多く存在します。亡くなる前にできることは限られていますが、まずは相続に関する最低限の知識を身につけておくことが大切です。遺言書は相続をスムーズに進めるための有効な手段ですが、遺言書の内容が原因でトラブルの火種になる可能性もあります。そのため、遺言書を作成する際には十分に考慮して、慎重に進めるようにしましょう。
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