1-5. 相続登記を申請する
不動産を引き継ぐ人が決まったら、その不動産の名義を相続人の名義に変更する必要があります。この手続きは「相続登記」と呼ばれ、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。
なお、相続登記は令和6年(2024年)4月1日から義務化されます。相続登記を行わずに放置しておくと、過料が科される可能性があるため、必ず期限内に行うよう注意してください。
1-6. 相続税の申告・納付
不動産を含む遺産の総額が基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超える場合、相続税が発生します。相続税の申告・納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内」となっており、この期限内に申告と納付を行う必要があります。
さまざまな手続きを行っているうちに期限が迫ることが多く、期限を過ぎると延滞税が発生する可能性もあります。できる限り早めに申告と支払いを済ませるよう心掛けましょう。
2. 相続した不動産の分け方
父が亡くなり、母(妻)と長男、長女の3人が相続人となる場合を例に、不動産の分割方法を解説します。
2-1. シンプルな現物分割
現物分割とは、不動産をそのままの形で相続人の1人が相続する方法です。たとえば、母(妻)が自宅を相続し、長男が預貯金、長女が有価証券を相続するようなケースが該当します。また、150坪の土地を50坪ずつに分筆してそれぞれが取得する方法も現物分割です。
この方法は一見シンプルですが、相続する不動産と他の財産で価値が大きく異なる場合、不公平が生じることがあります。たとえ土地を同じ面積で分けたとしても、形状や陽当たり、接道状況などで価値が変わるため、完全に公平に分割するのは難しい場合が多いです。
2-2. 不満が出にくい代償分割
代償分割とは、相続人の1人が不動産を単独で相続し、その代わりに他の相続人に代償金を支払う方法です。これは、特定の相続人が他の相続人の相続分を買い取るような形になります。
たとえば、4,000万円の土地を長男が相続する代わりに、母(4分の2)と長女(4分の1)に相当する3,000万円を代償金として支払う場合です。母や長女が不動産を引き継ぐ希望がなく、代償金が正当に算出されている場合、不満が出にくい方法といえます。ただし、代償金を支払うためには、長男に十分な資力が必要です。
2-3. 不動産をお金に替える換価分割
換価分割とは、不動産を売却して現金化し、その現金を相続人で分割する方法です。
たとえば、4,000万円で不動産を売却した場合、母が2,000万円、長男と長女がそれぞれ1,000万円を受け取ることになります。現金での分割は平等に分配しやすい一方、相続人の誰かがその不動産に住んでいたり、買い手が見つかりにくい場合、売却が困難になることもあるため注意が必要です。
3. 不動産を相続するための必要書類
不動産を相続した場合は、相続登記を行う必要があります。相続登記とは、被相続人の名義となっている不動産を相続人の名義に変更する手続きです。たとえば、亡くなった父親名義の不動産を長男が相続する場合、長男はその不動産の所在地を管轄する法務局に相続登記を申請し、父親名義から自分の名義に変更する必要があります。
では、相続登記に必要な書類にはどのようなものがあるのでしょうか。
相続登記には次の3つのパターンがあり、それぞれ必要書類が異なります。
- 遺言による相続登記
- 遺産分割による相続登記
- 法定相続分による相続登記
それぞれのパターンについて詳しく見ていきます。
注意:以下に記載する書類は、配偶者や子が相続人となる一般的なケースを想定しています。兄弟や姉妹が相続人になる場合や代襲相続、数次相続など、特殊な場合には追加の書類が必要となることがあります。
3-1. 遺言による相続登記の必要書類
遺言書がある場合、基本的に遺言書の内容に従って相続登記を申請します。自筆証書遺言の場合は、相続登記の前に家庭裁判所での検認が必要です。検認は、遺言書の内容を確認し、偽造や改ざんを防ぐための手続きです。相続人の立ち会いのもと、家庭裁判所で開封します。公正証書遺言や法務局で保管された自筆証書遺言の場合、検認は不要です。
遺言による相続登記の特徴
遺言による相続登記は、他の方法に比べて必要な戸籍謄本の数が少なくて済みます。「遺言者の死亡」と「相続人が不動産を取得する事実」を証明する戸籍謄本のみで良いため、被相続人のすべての戸籍謄本を揃える必要はありません。不動産を取得しない相続人の戸籍謄本も不要です。
【必要書類】
- 被相続人の死亡を証明する戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 遺言書(自筆証書遺言は検認済み、公正証書遺言はそのまま使用可能)
- 相続人の戸籍謄本
- 相続登記申請書
- 不動産の登記識別情報通知(登記済証)
3-2. 遺産分割による相続登記の必要書類
遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、相続財産をどのように分割するかを決めます。協議が成立すれば、遺産分割による相続登記を行います。この場合、協議書や相続人全員の署名・実印が必要です。
必要書類:
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(除籍謄本や改製原戸籍を含む)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名と実印が必要)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続登記申請書
- 不動産の登記識別情報通知(登記済証)
3-3. 法定相続分による相続登記の必要書類
遺言書がなく、遺産分割協議も行われなかった場合、または協議がまとまらなかった場合、民法に定められた法定相続分に従って相続登記を行います。この場合、不動産は相続人全員の共有状態になります。
共有不動産は、管理や処分を巡るトラブルの原因になりやすく、さらに相続が発生すると権利関係が複雑化するため、法定相続分による相続登記は慎重に検討する必要があります。
【必要書類】
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 相続登記申請書
- 不動産の登記識別情報通知(登記済証)
これらの書類を揃えて法務局に申請し、相続登記を完了させます。
4. 不動産の相続手続きは自分でできる?
不動産の相続手続きを自分で進めたいと考える方も多いでしょうが、実際には可能でしょうか。
4-1. 自分で必要書類をすべてそろえるのはとても大変
相続登記に必要な書類をすべて揃えるには、かなりの手間がかかります。特に戸籍謄本は、これまで本籍地の市区町村役場でしか取得できず、遠方に本籍がある場合は時間と労力がかかりました。
ただし、2024年3月からは最寄りの市区町村役場で本籍に関係なく戸籍謄本が取得できるようになり、負担が大幅に軽減されます。
とはいえ、兄弟姉妹の戸籍謄本やコンピューター化されていない古い戸籍は引き続き、本籍地の役場で取得する必要があり、郵送請求の場合は追加の手続きが必要です。記入ミスや小為替の不足で再送することになるケースもあるため、郵送請求に不慣れな方は注意が必要です。
4-2. 遺産分割協議書や登記申請書の作成にも法律の知識が必要
必要書類を集めた後、遺産分割協議書や登記申請書を作成することになりますが、これらの書類作成には法律の知識が求められます。
もし書類に誤りや不足があると、法務局から訂正や差し替えを求められるため、手続きがさらに煩雑になります。書類作成に自信がない場合は、最初から専門家に依頼する方が安心です。
4-3. 相続人同士が疎遠だったり不仲な場合は最初から専門家に
相続人同士が疎遠だったり、不仲な場合、遺産分割協議がまとまらず、手続きが進まないことがよくあります。特に、不動産の名義が曽祖父などの古い世代のままになっている場合、相続人の数が増え、相続人同士が顔も名前も知らないこともあります。
相続関係が複雑で、紛争の可能性がある場合は、無理に自分で進めず、最初から専門家に相談することをおすすめします。
5. まとめ
不動産の相続手続きは、複雑で手間のかかるプロセスです。書類を自分で揃えて申請するには知識と労力が必要で、さらに市区町村役場や法務局は平日しか開庁していないため、仕事などで時間的制約がある方は手続きが進みにくい場合があります。
2024年4月1日から相続登記が義務化されるため、今後はより速やかに相続登記を行う必要があります。書類集めが難しい、相続登記を放置している不動産がある場合は、登記の専門家である司法書士に相談することをおすすめします。
(記事は2024年6月1日時点の情報に基づいています)