相続法改正による実務への影響 (執筆:久保以明(弁護士))
第1 自己紹介
第2 相続法改正の内容
1 どうして改正したのか
2 配偶者の居住権保護のための方策
3 遺産分割に関する見直し
4 遺言制度に関する見直し
5 遺留分制度に関する見直し
6 相続の効力に関する見直し
7 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
第3 おわりに
遺言を書こうとすると・・・うまくいかない生前対策
自己紹介
1973年 | 千葉県生まれ |
1998年 | 一橋大学法学部 卒業 |
2000年 | 司法試験 合格 |
2001年 | 司法修習で沖縄へ(第一希望) |
2002年 | 小堀啓介法律事務所 |
2004年~2007年 | 『行列のできる法律相談所』(日テレ)5回出演 |
2007年 | 琉球法律事務所設立 |
2016年 |
相続専門サイトhttp://www.ryukyu-law-souzoku.org/を県内で最初に立ち上げ、相続問題に重点的に取り組む →数々の紛争事例、信託契約書、任意後見契約書、遺言作成に取り組む |
2017年 | 沖縄弁護士会副会長 |
2018年 |
弁護士法人 琉球法律事務所 代表社員弁護士 |
■所在:那覇市牧志2丁目
■体制:弁護士4名、事務員6名
■業務:企業法務(顧問先企業 約80社)→労務・契約
相続(遺言、信託)、その他一般民事
■趣味:サーフィン、ワイン、(最近しないが、絵、楽器(ピアノ・チェロ))
■家族:5人(沖縄出身の妻、娘3人)
第2 相続法改正の内容
1 どうして改正したのか
(1)高齢化社会の進展、家族のあり方に対する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み
(2)配偶者の死亡により残された他方配偶者への 配慮等の観点から・・・
※平成25年9月4日最高裁判決
→嫡出子・非嫡出子違憲判決
→子どもの平等について踏み込んだが、(従来の合憲判決の理由となっていた)法律婚の尊重は否定していない。
2 配偶者の居住権を保護するための方策
1 2つの方策
①短期居住権
②長期居住権
1 短期居住権
被相続人所有建物に相続開始時に無償で居住していた場合、
a 遺産分割終了日
b 相続開始から6ヶ月経過日
いずれか遅い日までの間、無償で使用する権利を取得
2 長期居住権
(1)どういう権利?
被相続人所有建物に相続開始時に無償で居住していた場合で、次のいずれかに該当する場合
a 遺産分割で長期居住権を取得すると決めた場合
b 長期居住権が遺贈の目的とされたとき
c被相続人との間で死因贈与契約により長期居住権を与えられているとき
→無償+終身(期間)
(2)次の場合も取得できる
家庭裁判所が、遺産分割の審判で、
a 共同相続人間で、配偶者が長期居住権を取得する
ことについて合意が成立している場合
b 配偶者が、長期居住権の取得を申し出た場合で、居住建物の
所有者の受ける不利益の程度を考慮しても
なお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認める時
(3)その他
居住建物の所有者は、配偶者に対し長期居住権の設定登記を備えさせる義務を負う
3 遺産分割に関する見直し
1 配偶者保護のための方策
持戻し免除の意思表示の推定規定をもうける。
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住建物または敷地を遺贈・贈与したときは、民法903条3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定する。
「持戻しの免除」?
民法903条→特別受益についての条文
1-2 遺産分割はどうなる?
「特別受益」→遺産の前渡し。
Aは、現金8000万円を残して死亡した。
Aは、生前に、Bに4000万の家を贈与していた場合、Bの取り分はどうなりますか?
(1)遺産は現金8000万円のみ。
Bは、4000万円、CDEFは、各1000万円。
もし、Bが4000万円の家をもらっていなかったら、CDEFの取り分は4000万円÷2÷4=500万円づつ多くなっていたはず。
これでは、亡くなる直前でもたくさんAから財産をもらってしまった方が得をすることになるので、不公平ではないのか?
1-3 「特別受益」って何?
遺産分割の場面では、前渡しされた財産を「特別受益」として、相続財産として扱う(これを「持戻し」という。)のが公平と考えた(民法903条1項)。
生前にBがもらった建物(4000万円)が「特別受益」だとするとどうなるか?
→8000万円+4000万円=1億2000万円(みなし相続財産)
→法定相続分は?Bが2分の1、C,D,E,Fがそれぞれ8分の1
→B=6000万円
→C,D,E,Fは、6000万÷4=1500万円
→しかし、Bは、生前4000万円もらっているので、
6000万円-4000万円=2000万円
遺産は現金8000万円のみ。
Bは、2000万円、CDEFは、各1500万円。
1-3 今回の改正で遺産分割はどうなる?
→8000万円+4000万円=1億2000万円(みなし相続財産)
→法定相続分は?Bが2分の1、C,D,E,Fがそれぞれ8分の1
→B=6000万円
→C,D,E,Fは、6000万÷4=1500万円
→しかし、Bは、生前4000万円もらっているので、
6000万円-4000万円=2000万円
しかし、Aは、20年以上も連れ添ったBが、生前に、自宅建物をもらったことで、相続分が減らされてしまうとは考えないのが普通ではないのか?
→持戻しの免除の意思表示があったと推定すべきだ。
1-4 今回の改正で遺産分割はどうなる?
「持戻し」の「免除」が推定されるので、遺産分割は、次のようになる。
相続財産=現金8000万円(+4000万円←持ち戻さない)
Bの相続分は、8000万円÷2=4000万円。
CDERの相続分は、4000万円÷4=1000万円づつ
となります。
2 預貯金債権の仮分割・仮払い制度
最高裁判決で預金は遺産分割の対象になるとされた
→全員の同意がないと引き出せない。
(1)仮処分の要件緩和
①遺産分割審判・調停の申立
②相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情
③相続人の申立て
④他の共同相続人の利益を害しない限り
→遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部を申立人に仮に取得さ
せることができる。
(2)家庭裁判所の判断を経ない預貯金払戻し
相続人は、相続開始時の債権額の3分の1に当該相続人の法定相続分を 乗じた額については、単独で払い戻しできる。
※払い戻した預金の使途は問われない
(3)処分されてしまった相続財産を遺産分割の対象とする
本来、遺産分割の対象は、「遺産分割時の相続財産」、相続開始時の相続財産ではない。
相続開始後、相続人の一人が遺産を処分してしまった場合、遺産分割の対象にならなくなってしまう。
→処分をした相続人を除く共同相続人全員の同意により、存在するものとみなすことができる。
→預金の仮払いで取得した債権は、払い戻しを受けた相続人が遺産分割により取得したものとみなされる。
4 .遺言制度の見直し
1 自筆遺言証書
(1)すべて自分で書かなければならなかった。
財産目録を添付する場合、その目録については自書が不要になった。
(2)署名押印方法
財産目録にそれぞれに署名・押印しないといけない。
2 自筆遺言証書の保管制度
自筆遺言証書は、保管場所に困ることが多い。紛失、改ざんのリスク。
煩雑な検認制度
(1)法務局に保管できることになった。
遺言者の住所地若しくは本籍地を管轄する法務局
または、
遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
(2)検認不要。
(3)遺言者死亡後は誰でも閲覧請求できる
→生存中はダメ。
3 遺留分制度の見直し
従来
改正
(1)遺留分侵害額に相当する金銭の支払い請求権になった。
(2)相続人に対する生前贈与の範囲の変更
相続人に対する贈与は10年前まで
それ以外に対する贈与は1年前まで
※ただし、遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合はさらに遡る。
6 相続の効力等に関する見直し
1 相続による権利の承継に関する見直し
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかに関わらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない。
7 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
1内容
相続人でないけれども、被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした者(特別寄与者)は、相続開始後、相続人に対し、寄与に応じた金銭(特別寄与料)の請求ができる。
2 寄与分との違い
遺産分割手続きの中で考慮されるものではない。
3 特別寄与者
被相続人の親族であって、相続人でない者に限定されている。
4「特別の寄与」
財産出資型が廃除されている。
5 期間制限
相続開始・相続人を知った時から6ヶ月以内
相続開始から1年以内
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