| この記事の要点 ・親の土地に子が無償で家を建てて住んでいる場合、遺産分割では「土地をいくらと評価するか」「無償で使ってきたことは特別受益にあたるか」が争点になりやすくなります。 ・本事例では、ご依頼者(長女)が那覇家庭裁判所沖縄支部の遺産分割調停で、自宅の建つ土地を単独で取得し、きょうだいへ代償金を支払う「代償分割」で合意しました。 ・代償金は、相続登記の後にその土地を担保に借入れをして準備できるよう、支払期限を約半年先に設定しました。 |
はじめに
沖縄では、親の土地に子が家を建て、親と同じ敷地や二世帯住宅で暮らしてきたというご家庭が少なくありません。ところが親が亡くなると、ほかのきょうだいから「土地を無償で使ってきたのは得をしていたことになる」「土地を売って分けたい」と求められ、住み慣れた家を失うのではないかと不安になる方もいます。
今回は、沖縄市内で母の土地に二世帯住宅を建てて暮らしてきた長女の方が、遺産分割調停を経て、自宅の土地を守ったまま解決した事例をご紹介します。
1. 事案の概要
| 項目 | 内容 |
| 被相続人 | 母 |
| 相続人 | 長女(ご依頼者・調停の相手方)、長男・次男・三男(調停の申立人) |
| 主な遺産 | 母名義の宅地(沖縄市内、長女の自宅の敷地) |
| 手続 | 那覇家庭裁判所沖縄支部での遺産分割調停(長男・次男・三男が申立て) |
ご依頼者は数十年前、母の希望で母の土地に二世帯住宅を建て、1階に母、2階に自身の家族が住み、長く母の身の回りの世話をしてきました。母の亡き後は、仏壇の管理も引き継いでいます。
2. 争点となったポイント
2-1. 土地をいくらと評価するか
遺産のほとんどは土地でした。一般に固定資産税評価額は時価の7割程度を目安に定められているため、評価額をそのまま使うのか、時価に引き直すのかで、代償金の額が大きく変わります。また、土地の上に長女名義の建物が建っている場合、その土地は自由に売ったり使ったりしにくいため、利用権の分を差し引いて評価する考え方があります(実務上、堅固な建物では更地価格の2〜3割程度とされることが多いです)。
2-2. 土地の無償使用は「特別受益」か
申立人側は、長女が地代を払わずに土地を使ってきたことは特別受益(生前に受けた遺産の前渡し)にあたると主張しました。これに対し当方は、母の希望で二世帯住宅を建て、長年母の世話をしてきたことは、土地を無償で使う利益と見合う関係にあり、仮に受益があるとしても、母には「相続のときに持ち戻さなくてよい」という意思(黙示の持戻し免除の意思表示)があったと主張しました。
3. 解決までの流れ
期日は10回以上に及び、双方が主張書面や資料を出し合いました。途中で土地の評価額について中間合意をし、調停委員会から特別受益に関する見通しが示されたことで、話合いの土台がそろいました。
その後、申立人側から代償金の提案が出され、当方はご依頼者と、土地を売却する選択肢も含めて何度も検討しました。最終的には、仏壇の管理を引き継ぐことや、これまでの固定資産税の負担も踏まえて調整し、申立人側の当初の提案から大きく減額した代償金額で合意に至りました。申立てから成立まで約1年9か月でした。
4. 解決の結果
| 項目 | 結果 |
| 土地 | ご依頼者(長女)が単独で取得 |
| 代償金 | 長女が長男・次男・三男へ支払う(申立人側の当初提案から大きく減額) |
| 支払期限 | 調停成立から約半年後(相続登記後、土地を担保に借入れして準備) |
| 相続登記 | 調停成立後、当事務所で申請まで対応 |
5. この事例から分かること――「10年」の期限に注意
2023年4月の民法改正により、相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益などを主張できなくなりました(民法904条の3)。改正前に始まった相続にも適用され、経過措置により、遅くとも2028年3月31日までに家庭裁判所へ遺産分割を申し立てていないと、同様に主張できなくなるおそれがあります。親が亡くなってから長く遺産分割をしていないご家庭は、早めの確認が大切です。
6. よくある質問(Q&A)
Q1. 親の土地に家を建てて住んでいますが、遺産分割で土地を手放さなければなりませんか?
必ずしも手放す必要はありません。土地を取得する代わりに、ほかの相続人へお金を支払う「代償分割」という方法があります。ただし、代償金を支払えるだけの資金の見通しが必要です。
Q2. 代償金をすぐに用意できない場合はどうすればよいですか?
調停では、支払期限を一定期間先に設定したり、相続登記後に土地を担保に借入れをする前提でスケジュールを組んだりすることがあります。本事例でも、支払期限を約半年先に設定しました。
Q3. 仏壇やお墓(トートーメー)は誰が引き継ぐのですか?
仏壇やお墓などの祭祀財産は、遺産分割の対象とは別に、亡くなった方の指定や慣習、話合いで承継者が決まります(民法897条)。長男が継ぐものと考えられがちですが、法律上は長男に限られません。本事例では、長女であるご依頼者が仏壇の管理を引き継ぐことも、全体の調整で考慮されました。
7. 弁護士に相談するメリット
・土地の評価や特別受益について、法律と実務の考え方に沿った主張ができます。 固定資産税評価額の扱いや、建物が建っている土地の減価など、結論を左右するポイントを整理できます。
・調停の期日対応や書面作成を任せられます。 感情的になりやすいきょうだい間のやり取りを、代理人を通じて冷静に進められます。
・「土地を守る」「売って分ける」の両方を比べて判断できます。 代償金の資金計画や、調停成立後の相続登記まで一貫して相談できます。
8. 無料相談のご案内
弁護士法人琉球スフィアでは、沖縄市・那覇市をはじめ沖縄県内の相続・遺産分割のご相談をお受けしています。「親の土地に家を建てていて、遺産分割が不安」「きょうだいから代償金や売却を求められている」「親が亡くなってから長く遺産分割をしていない」といったお悩みがあれば、お一人で抱え込まずにご相談ください。
ご相談方法・費用:【相談料初回無料・ご予約はこちら】
ご注意
・本記事の事例は、個人や物件が特定されないよう、当事者の続柄や所在地などを変更しています。
・解決までの期間や結果は、事案ごとの事情によって異なります。同様の結果をお約束するものではありません。
・法令の内容は2026年11月時点のものです。
執筆者
弁護士 上原佑人【うえはらゆうと】
弁護士法人琉球スフィア
主な取扱分野:相続・遺産分割
参考資料(出典)
・民法(第897条・第903条・第904条の3・第907条)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
・裁判所「遺産分割調停」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
・法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html