遺産相続 相続手続き

「長男だから全部もらう」と話し合いを拒否された遺産分割――裁判所の手続きから全相続人への清算まで一貫して対応した事例

この記事の要点
・相続人の一人が「長男だから遺産はすべて自分のもの」と主張しても、法律上その主張は通りません。遺言がない場合、子どもの法定相続分は性別や生まれた順番に関係なく均等です(民法900条4号)。
・相手が話し合いに応じない場合でも、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることで、裁判所が関与する手続きに移すことができます。
・本事例では「調停に代わる審判」(家事事件手続法284条)を活用し、その内容に基づいて担当弁護士が土地の売却を担当しました。税理士と連携して税金を試算し、相続人全員(6グループ)へ、計算の根拠を示した清算と送金まで行いました。

はじめに

親が亡くなった後、相続人の一人が「長男だからすべての遺産を自分がもらう」と主張し、他の相続人との話し合いを拒否してしまうケースは少なくありません。しかし、長男がすべてを継ぐ「家督相続」の制度は、戦後の民法改正(1947年)で廃止されています。現在の民法では、遺言がない場合、子どもは全員が同じ割合の法定相続分を持ちます(民法900条4号)。

それでも当事者同士では感情的な対立が深まり、話し合いが平行線をたどることが多くあります。今回は、話し合いに応じない相手方がいる中で、家庭裁判所の手続きに、土地の売却と税理士との連携を組み合わせ、相続人全員への清算までを終えた事例をご紹介します。

1. 事案の概要

1-1. 相続人の構成

被相続人(亡くなった方)は母で、相続人は次の7名(6グループ)でした。

立場人数・グループ
長男(相手方)1名
長女・二女・四女3名
三女(ご依頼者・申立人)1名
亡二男の代襲相続人(お孫さん)2名(二人で1グループ)
合計7名(6グループ)

※代襲相続:本来の相続人(この事例では二男)が先に亡くなっている場合に、その子(被相続人から見て孫)が代わりに相続することです(民法887条2項)。

1-2. 主な遺産

遺産の種類内容
土地沖縄県内の区画整理事業地内の土地(仮換地)
預貯金複数の金融機関の口座
自動車1台
現金約800万円

2. なぜ紛争になったのか

2-1. 長男による「全財産取得」の主張と、話し合いの拒否

長男は生前から「長男である自分がすべての遺産を取得する」と主張しており、法定相続分を無視した態度をとっていました。当事務所の弁護士が代理人として話し合いを申し入れても長男から反応はなく、協議そのものが無視される状態が続いていました。

2-2. 争点が多く、当事者同士では整理できなかった

土地の扱いに加えて、次のような点で相続人の主張が食い違い、直接の話し合いでは整理がつかない状態になっていました。

  • 四女が生前に受け取っていた車の購入資金を「特別受益」としてどう扱うか(民法903条)
  • 過去のお金の貸し借りの扱い
  • 使いみちが分からないお金(使途不明金)についての主張

※特別受益:一部の相続人だけが生前に受けた援助などを、遺産の前渡しとみなして計算に入れる仕組みです。計算に戻すことを「持ち戻し」といいます。

3. この事件で解決が必要だった3つのポイント

ポイント1:話し合いが不可能 → 家庭裁判所の手続きへ移す

直接の話し合いができない以上、家事調停・審判という、裁判所が第三者として入る公的な手続きに移すことが必要でした。

ポイント2:土地を分けにくい → 売却して現金で分ける(換価分割)

遺産の大半を占める土地は、そのまま分けることが難しいため、売却して代金を分ける「換価分割」を目指しました。ただし、敷地の近くで営業する店舗の移動交渉や、区画整理事業に伴う境界の確定など、不動産実務上の課題がありました。

ポイント3:税金・費用を含めた、誰が見ても分かる清算

土地の売却に伴う譲渡所得税・住民税・国民健康保険税への影響、登記費用、不動産仲介手数料、特別受益の持ち戻し計算などを正確に行い、相続人全員が納得できる形で分配額を確定させる必要がありました。

4. 解決までの流れ(当事務所の対応)

ステップ1:那覇家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立て

相手方が話し合いを拒否し続けたため、当事務所は那覇家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てました。

ステップ2:「調停に代わる審判」の活用を提案

手続きが長引くことを防ぐため、家事事件手続法284条に基づく「調停に代わる審判」の活用を提案しました。裁判所・調停委員会と連携し、当事者それぞれの意向をくみ取った審判の条項案を作成することで、法的な効力を持つ解決の基準を定めました。

「調停に代わる審判」とは
調停で全員の合意がまとまらない場合でも、裁判所が相当と認めるときに、解決案を「審判」という形で示す制度です(家事事件手続法284条)。
当事者から2週間以内に異議が出なければ確定し、審判と同じ効力を持ちます(同法286条・287条)。
一方、適法な異議が出た場合は効力を失うため、どの事案でも使えるわけではありません。

ステップ3:審判に基づき、弁護士が土地の売却を担当

審判の条項に基づき、当方が土地の売却手続きを任されました。地元の不動産業者と連携し、近隣店舗の移動の問題や登記手続きを整理したうえで、売却を成立させました。

ステップ4:税理士と連携し、税金を事前・事後に試算

売却後に発生する税金を見越し、連携先の税理士法人と協力して、売却の前と後に詳しい税金シミュレーションを行いました。

ステップ5:清算表の作成と、相続人全員への送金

売却代金から、固定資産税などの公租公課、各種税金、登記費用、不動産仲介手数料を差し引き、特別受益(四女の車の購入費の持ち戻し)も反映した清算表を作成しました。そのうえで、相続人全員(6グループ)に対し、1円単位まで根拠を示した清算・分配(振込)を行いました。

5. 解決結果のまとめ

項目結果
手続き那覇家庭裁判所での遺産分割調停 → 調停に代わる審判
土地審判に基づき弁護士が売却を担当し、売却成立
特別受益四女の車の購入費を持ち戻して計算
税金税理士法人と連携し、売却の前後に試算
清算相続人全員(6グループ)へ、根拠を示した清算表とともに送金

6. よくある質問(Q&A)

Q1. 「長男だから遺産は全部自分のもの」という主張は、法律上認められますか?

認められません。長男がすべてを継ぐ家督相続の制度は1947年の民法改正で廃止されています。遺言がない場合、子どもの法定相続分は均等です(民法900条4号)。ただし、有効な遺言がある場合や、相続人全員が納得して合意した場合は、別の分け方になることもあります。

Q2. 相続人の一人が話し合いを無視し続けたら、どうなりますか?

家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます(民法907条2項)。調停がまとまらない場合は、審判の手続きに移ります(家事事件手続法272条4項)。相手が話し合いに応じなくても、手続きを前に進める方法があります。

Q3. 「調停に代わる審判」は、どんなときに使われますか?

調停で大筋はまとまっているものの、一部の相続人が出席しない、または最後の合意だけができないといった場合に、裁判所が相当と認めるときに使われます(家事事件手続法284条)。2週間以内に異議が出ると効力を失うため、事案に応じた見極めが必要です。

Q4. 土地を分けられない場合、どうすればよいですか?

主に3つの方法があります。そのまま分ける「現物分割」、一人が取得して他の相続人にお金を払う「代償分割」、売却して代金を分ける「換価分割」です。本事例では換価分割を選びました。

Q5. 生前に一部の相続人だけが援助を受けていた場合は?

「特別受益」として、遺産に持ち戻して計算できる場合があります(民法903条)。本事例でも、車の購入資金を持ち戻して計算しました。何が特別受益に当たるかは、金額や目的などによって判断が分かれます。

Q6. 相続した土地を売ると、税金はかかりますか?

売却して利益が出た場合、譲渡所得として所得税・住民税がかかります。換価分割では、各相続人が受け取る割合に応じて申告するのが一般的です。所得が増えることで、国民健康保険税などに影響する場合もあります。具体的な税額は税理士にご確認ください。

7. 担当弁護士からのメッセージ

遺産分割では、「感情的な対立」や「相続人同士の話し合い拒否」が大きな障害になることがあります。しかし、話し合いが平行線のままでも、家庭裁判所の手続きを正しく使い、不動産の売却や税金の処理といった実務面の出口を一つずつ組み立てることで、解決に向けて手続きを進めることができます。

「相続人の一人が話し合いに応じない」「長男が遺産の独占を主張して困っている」「不動産の分け方や売却・税金の手続きが分からない」とお悩みの方は、お一人で抱え込まず、琉球スフィアへご相談ください。

ご相談方法・費用:【相談料初回無料・ご予約はこちら】

ご注意

  • 解決までの期間や結果は、事案ごとの事情によって異なります。同様の結果をお約束するものではありません。
  • 法令の内容は2026年10月時点のものです。

執筆者

弁護士 久保以明【くぼもちあき】

弁護士法人琉球スフィア

主な取扱分野:相続・遺産分割

参考資料(出典)

  • 民法(第887条・第900条・第903条・第907条)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 家事事件手続法(第272条・第284条・第286条・第287条)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
  • 裁判所「遺産分割調停」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
  • 国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/1440.htm
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